発達障害にまつわる「あるある」&解決案シリーズ第5回
これがないと生活できない!

著者:筑波大学 准教授 水野智美先生

ケース1「お気に入りのものが手放せない」

085178「うちの子どもは、長い物を持っていると、安心して遊べるのですが、持っていないと不安になってしまいます。

細いヒモを渡すと、持っていたつもりが、どこかに置き忘れてしまったり、手から離れてしまっていたりするので、ふと手に持っていないことに気がついた途端、大泣きをします。

そこで、手から離れても見つけやすく、子どもが持っていた時に他の子どもにあたってもけがをさせない柔らかい素材の物を与えようと思って探したところ、ゴム製の大きなヘビのおもちゃがありました。

幸い、子どもがそのヘビのおもちゃを気に入ったので、それを持たせていました。

しかし、ある時、屋内の遊戯施設に連れて行ったときに、子どもが持参したヘビのおもちゃを持って遊んでいたら、周りのお友達から気持ちが悪いと言われ、避けられてしまい、周囲に誰もいなくなってしまいました。

子どもは気にせず、ヘビを持って遊んでいたのですが…」

ケース2「必要ないのに薬を持って幼稚園に行くことが気に入ってしまった」

「うちの息子が風邪をひいた時に、病院で処方された粉薬を幼稚園に持たせていました(飲むのは、嫌いだったので、結局は持っていくだけで飲まないのですが……)。

薬を持って幼稚園に行くことがお気に入りになってしまい、風邪が治っても、薬を持っていくんだと言って、聞きません。

仕方がないので、粉薬に近い形の物を探したら、夫が飲んでいる青汁の粉末がありました。

毎日、幼稚園に青汁の粉末を喜んで持っていき、先生に笑顔で渡しています。」

ケース3「マイブームのものが手放せない」

「うちの子どもの今のブームは、動物のしっぽの形をしたキーホルダーです。

家にいる時は、片時も手から離さず、ご飯を食べる時も寝る時もさわっています。

もちろん、保育園にも持っていきます。

保育園では、リュックサックにつけていますが、いつもロッカーの前にいて、キーホルダーをさわっているようです。

しかし、このブームは、だいたい1か月から2か月で別の物に移ります。

前回は猫じゃらしでした。

その前は、ハンディサイズのモップでした。

保育園でも、先生は『またおかしなブームが来た!』と喜んで見守ってくれます。

ただし、ブームが去ると、それまで寝食を共にしていたにもかかわらず、全く見向きもせず、その存在があったことすら忘れているようです。

ブームが去った後の残骸が箱の中に残っています。」

「お気に入り」がないと落ち着かない子ども。こんなとき、どう対応すればいいの?

「これがないと生活ができない」という子どもは、その物が子どもにとってはお守りなのです。

私たち大人も、知らない場所や言葉が通じない国に行った時に、自分が知っている物やわかる物があると、ホッとすることがあります。

それと同じで、このような子どもも、日常の生活の中でも、自分のお気に入りのものが身近にあると、「これがあれば大丈夫」と思うことができ、不安が解消されるのです。

生活の中で子どもも不安と戦っているのだと思って、お気に入りのものを持っていることを許してあげてください。

不安が解消されていくと、手にしていなくてもいい時間が長くなります。

また、ケース3のように、ブームの期間が短い子どももいます。

逆に、「これ」と決めたものでなければならない子どももいます。

ブームの期間が短く、代わりになるものを見つけられればすぐに気持ちを切り替えられます。

しかし、同じものでなければならない場合には、違うものを子どもに与えても子どもは安心できません。

たとえば、お気に入りのぬいぐるみがなければ落ち着かない場合には、同じぬいぐるみをもう一つ用意しておいた方が良いです。

しかも、子どもが使っていたものが無くなった時に、新品のスペアを出しても、子どもにとっては『違うもの』と感じてしまいます。

そのため、2つのものを子どもにわからないように交互に使わせて、同じぐらいに使い込んでいくようにするとよいでしょう。

著者紹介

水野 智美先生

水野智美先生

筑波大学医学医療系准教授。臨床心理士。
専門は命の教育、乳幼児期の臨床保育学、障害理解。
近年では幼児に対する命の教育や気になる子どもの対応に精力的に取り組んでいる。