発達障害にまつわる「あるある」&解決案シリーズ第6回
言葉だけでは伝わらない

著者:筑波大学 准教授 水野智美先生

ケース1「等身大のモデルを見せたら、今までできなかったことがすぐにできるようになった!」

こどものトイレ私はシングルマザーで、一人息子を育てています。

息子に、立っておしっこができるように、毎日、教えていましたが、言葉で伝えても、なかなか立っておしっこができませんでした。

背中が丸まってしまい、どう見ても、気持ちが悪くて吐いている人のようです。

そこで、子どもと同じぐらいの背丈の小便小僧の置物を買ってきて、小便小僧と同じように立つように伝えました。

そうすると、今まで何度も言葉で伝えても、うまくいかなかったことが、すぐにできるようになりました。

今でも、息子は、トイレに置いてある小便小僧を見て、おしっこをしています。

小便小僧のサイズが大きいので、じゃまなのですが。」

ケース2「靴の左右がわかるようになったけれど……」

「うちの娘は、靴の左右がわかりません。逆に履いていることは、しょっちゅうです。

『右はこっちよ、左はこっちよ』と伝えても、全くわかっていないようです。

また、左右反対に履いているときに、『気持ち悪くない?』と聞いても、『うーーん』というあいまいな返事しか返ってきません。

そこで、靴の左右にイラストを描いておき、両足を揃えて立つと、イラストが完成するようにしました(たとえば、ハートマークの半分をそれぞれの靴に描いて、両足を履いて揃えると、ハートの形になるようにしました)。

それによって、子どもは左右を間違えることがなくなりました。

しかし、全部の靴に、同じイラストを描いてしまったために、左足は長靴、右足は運動靴を履いてしまうことがありました。」

言葉だけだとイメージをつかみづらい子ども。こんなとき、どう対応すると良いの?

発達障害のある子どもの中には、言葉で伝えても相手の言うことをなかなか理解できないけれど、目で見たら理解できる子どもが多くいます。

ケース1の子どもに、おしっこをする時に『背中をそらせなさい』とか、『お腹をつきだしなさい』などと言っても、子どもには伝わりません。

言葉の意味もよくわからなければ、具体的に背中やお腹をどうすればよいのか、どれぐらい、どの方向にそらしたりつきだしたりすればよいのかがわからないからです。

それよりも、実際にどのような姿勢をするのかを具体的に見せてもらえれば「こういうことなのか」と理解しやすいのです。

また、ケース2のように、左右がわからない子ども、表裏がわからない子ども、上下がわからない子どもはよくいます。

この場合にも、「赤いリボンがついている方が左で、黄色いリボンがついている方が右よ」などと教えようとしても、そもそも右がどちらなのか、左がどちらなのかがわからないですし、言われたことを覚えておくことも苦手です。

そのため、右と左を併せると絵が完成するように、目で見て正しいことが確認できるように工夫をしてあげると子どもは自分で右と左を意識して履くことができます。

ただし、発達障害のある子どもはとても狭い範囲しか見ていないことが多く、イラストを合わせることだけに意識を向けてしまうと、靴の種類が違うことに気がつかないことがあります。

それを避けるために、長靴には星のマーク、運動靴にはハートマークといったように、靴によってイラストを変えるとよいでしょう。

著者紹介

水野 智美先生

水野智美先生

筑波大学医学医療系准教授。臨床心理士。
専門は命の教育、乳幼児期の臨床保育学、障害理解。
近年では幼児に対する命の教育や気になる子どもの対応に精力的に取り組んでいる。